看護職のワーク・ライフ・バランス

看護職の人材確保と定着促進のために

平成26年2月に、看護管理者向けのある研修会で「ワーク・ライフ・バランス」をテーマに話をさせていただきました。その際に使用したスライドをもとに、「看護職のワーク・ライフ・バランス」と、その取組をいかに「人材確保」と「定着促進」に結び付けるかについてご説明します。

それでは、お贈りします。
「いまこそワーク・ライフ・バランス! 看護職の人材確保と定着促進のために」
by 特定社会保険労務士 渡邊一郎

これらは、最近新聞、TV、雑誌などでよく目にする数字です。
団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」について聞かれたことがあるかと思いますが、その担い手となる医療現場では、とにかく看護師が足りない、とされています。

看護職の離職理由として、日本看護協会の「日本の医療を救え 2010年9月」から、「個人の状況に関する理由」の主なものを挙げています。やはり、というか、 妊娠・出産・子育てがトップ3を占めています。また、11位の親の介護などは、今後ますます増えることが予想されます。


次に、「職場環境に関する理由」です。
看護職特有の、身体的・精神的ハードさを物語っている理由となっています。

これらの理由で離職した方の多くが、そのまま看護職に復帰しない潜在看護師となっているのです。

でも、もしも勤務している病院で「ワーク・ライフ・バランスが実現していたら?」「もしかしたら、辞めることなく働き続けることができたかもしれない?」
それが、今回のテーマです。

よく誤解されているのですが、「ワーク・ライフ・バランス」は、仕事よりもプライベートを充実させるもの、とか、単に子育て支援の施策ということではなく、働く人それぞれが、希望するバランスで仕事と生活の両立を、無理なく実現することをいいます。

しかし、経営側からすると、どうしても「ワーク・ライフ・バランス」に対して、拒否反応を示されることがあります。
抵抗要因としてよく挙げられるのが、この3つです。
まず、「子育て以外のスタッフにしわ寄せが・・・」。これは、WLBを子育て支援策としてだけ位置づけたとき、陥ってしまう問題です。
子育て世代だけでなく、誰もが利用できる施策を整備することにより、「みんなのWLB」とする必要があります。そして、「お互い様」意識をはぐくむことが何より大切です。

WLBに取り組み始めると、一時的に人員不足感が強まることがあります。 しかし、手をこまねいていては、何も解決しないのです。
業務改善や効率化の取り組みも合わせて行い、負担軽減を図らなければなりません。「人が足りない職場」から「人が集まる職場」へ変えていきましょう。
WLBって金かかるんでしょう?というのも、特に経営者の方がよく口にする問題です。
実際には、コストがかかる取り組みもあれば、コストのかからない取り組みもあります。大切なのは、WLBを単なる福利厚生やコストととらえるのではなく、人材確保や定着促進につなげる経営戦略と考えることです。

経営戦略としてのWLBを図示しています。WLBに取り組むことにより、「人材の定着」「人材の育成」「安全で質の高いサービス」「経営改善」を有機的に結び付け、相乗効果で組織のよりよい姿を実現していきます。

では、WLBの実現のために、具体的にどんな取り組みをすればいいかみていきましょう。

WLBの実現に向けて、具体的に5つの行動を行っていく必要があります。
@推進体制づくり A現状分析 B計画の作成と実行 C多様な勤務形態の実施 D評価と改善
これらを、計画、実施、評価、改善というPDCAサイクルで回していきます。

なお、日本看護協会のHPでは「看護職のワーク・ライフ・バランス推進ガイドブック」がダウンロードできるよになっています。非常に充実した内容ですので、ぜひご参照ください。

では、実際にWLBに取り組んだ施設が、どのように成果を上げたのか、具体例を見ていきましょう。

まず、短時間正社員制度の導入により退職者が減少した例です。
この施設は、平成20年に看護師の離職率が30%を超えるなど、深刻な状況にあったのですが、人事部長を中心に協議会を設置し、問題点の抽出や意識調査を踏まえた上で、短時間正社員制度をスタートしました。

5パターンの短時間正社員制度を、要件を設けず選択でき、かつ毎月パターンを変更することも可能という、とても使い勝手の良い制度だったようです。その結果、退職者数は大幅に減少し、また、時間外労働も減少するという効果が得られています。
次は、希望する正職員を期限付きの夜勤専従者にした取り組みです。
この施設は、看護師30名が育休等により夜勤ができなくなることが判明し、さあ大変。そこで、組合との協議や、職員への説明会、アンケートなど実施し、期限付き夜勤専従者を募ったところ、予想を超える希望者が集まり、乗り切ることができました。
皆さんの施設では、看護補助者がいても、病棟毎に配置されていることが多いかと思いますが、病棟横断で、効率的に活用できる仕組みづくりを行った例です。
班の編成と当番制、そして業務依頼の方法など、すごく工夫していることが見受けられます。その結果、看護師の負担軽減にも大きく貢献しています。
これは、まずWLBについて話し合う委員会を立ち上げた例です。単純なようですが、実は、この例のように、看護部だけではない、医師やコメディカルもメンバーとした話し合いの場を設けることが取り組みの取っ掛かりとしては大事です。効果として挙げられているように、職員の意識改革にも貢献しているようです。
; その他の取り組み例をいくつか挙げています。Aは、短時間勤務制度のひとつですが、1日はフルタイムで、勤務日数を少なくしているというパターンです。意外かもしれませんが、「お先に失礼」しなくてよい、ということで職員から好評を得ているとのことです。
そのほかにも、施設によって様々な取り組みがなされています。
WLBの取組みを定着促進に結び付けるポイントとしては、いかに「職員の働きやすさについて真剣に取り組んでいることが伝わるか」です。
また、様々な取り組みの中でも、多様な働き方、勤務形態を提供できることは、定着促進のみならず、人材の確保にも特に有効な取り組みだといえます。
人材確保に向けては、いかに対外的にPRできるかがポイントとなります。
どんなにいい取り組みをしていても、それだけでは外には伝わりません。
学校訪問や実習受け入れも大事ですが、自分たちの取組みや職場のことを効率的・効果的に対外的に伝えられるのは、やはりホームページです。

では、ホームページで何を伝えるか? WLBに取り組んでます、だけでは不十分です。病院の使命や将来像、具体的な取り組み、そして、取り組みを通じた現場のイキイキを伝えてください。
求職者にとっては、そこで働く人の声が、Realな共感を生むのです。

これは、復職支援セミナーをホームページや広報誌で募ったところ、応募者増加に結び付いたという事例です。

※取り組み事例A〜Eの出典は、すべて厚生労働省HPからです。


人材確保のポイントとしては、まず、皆さんの病院や看護部のことを広く知ってもらうということです。そして、WLBの取り組みを通じて、求職者の方に、「この病院ならずっと働いていけそうだと」という明るい未来を示してあげてください。
WLBに取り組んでいる施設は、実は増えてきています。近い将来、WLBに取り組んでいることは、病院で働く人にとって「当たり前」のことになるのかも知れません。だからこそ、取り残されてはいけないのです。
迷ったら、こう考えて下さい。「1年後、2年後も今の状況でいいですか?」と。
WLBの真の目的は、ワークとライフの相乗効果で、職員の人間性や仕事の質を向上させ、結果として病院、患者、みんなにとってWinWinになることです。
さあ、まずはできることからはじめてみましょう。そして、周囲の人をどんどん巻き込んでいってください。数年後、みなさんの職場で、スタッフがイキイキと働いていますように・・・。